Vol.0008 緊張の看護部長室で  [2013/11/20更新]

寒い季節がやって来ました!
寒いのは嫌だけど、寒くなると沢山出てくるもの
それは“チョコレート”
新作はもちろん、毎年この時期にならないと顔を出してくれない
繊細だけど、絶対的地位を確立させているチョコレートもあります。
チョコが冷蔵庫のストックにないなんて考えられない
チョコと共に生きているマツコですが、
そんなチョコレートにも、つい足を止めてしまう思い出があります。

それは、マツコがまだ看護師として随分なあまちゃんだった頃。
以前、病棟で泣くのはいただけないと書きましたが、
マツコ自身、仕事中に取り乱して泣いてしまったことがありました。
なかなか泣き止まず、しゃくり上げながら泣き続けるマツコを
一人の先輩がスッと手を引いて休憩室に連れて行ってくれました。
大ベテランの看護師で当時のマツコにとっては雲の上の人で
普段は、話すことも恐れ多い先輩でした。
休憩室に入っても、泣き続ける私を
お母さんが子供を泣き止ませるようにぎゅっと抱きしめてくれて

「こういう時はね、甘いものを食べるのよ」

と言いながら、自分のロッカーから
ひとつひとつ丁寧に包装された小さいチョコレートを
出して渡してくれました。
まだ、しゃくりが止まらない状態だったのに
急に与えられた優しさと
ちょっぴりふっくらしているその先輩のキャラクターに
ぴったりな“チョコレート”というアイテムが出てきたことに
こころがほやっとしたのを覚えています。

その時食べたチョコレートは、
いちばん しょっぱくて
いちばん あまくて
いちばん にがい
もう一度食べたいような食べたくないような…

あの時だからこそ、食べることができたものだと思います。

だって、今はもう
そんなチョコレートをあげることができる人でないといけないから。

大好きなチョコだけど、
普段は何にも考えず、ただただ、おいし~と思いながら
食べてしまうチョコだけど、
時々ふと思い出して
背筋を伸ばして、看護師としてちゃんとしなきゃ、
あのチョコレートを食べたのだから
どんな形であれ、ちゃんと看護師を続けていかなきゃと
思い改めさせてくれるアイテムでもあります。

そんなチョコレートのことを思い出すと
一緒に思い出すのが
“バナナ”です。

チョコレートでその一時、気持ちは落ちついたものの
泣いた一件の根本的な原因と向き合い続ける日々が続き、
やっとそれがひとつの区切りをみせた時
マツコは、看護師を辞めようとしました。

仕事を一日休んでしまったマツコが、次の日呼ばれたのは
看護部長室でした。
チョコレート効果はとっくに消え去り、
甘いものどころか何も食べずに
看護部長室に向かいました。
看護部長さんは、それまでの経緯の中で厳しくもかつ全力で
私を守って支えてくれた方の一人で、
自分は看護師を辞めるべきだと思いながらも
この恩をこの病院、この看護部に返さないといけない
という気持ちも強くありました。

色んな話をして下さり、辞めずに頑張って看護師を続ける方向に
背中を押してくれた看護部長さんが、職場に向かうマツコに一言。
「ところであなた、朝、何か食べたの?」
何も食べていないことを伝えると
「これを食べなさい。エネルギーが出るから。」
と自分のかばんをゴソゴソしながら差し出して下さったのが、
一本のバナナでした。

誰しもが緊張してしまう看護部長室の中、
看護部長さんと二人っきりで食べる
少し熟れすぎのバナナ。
なんだかその光景が、ちょっぴり滑稽で、
自分を責め続けてガチガチになっていたこころが
少し熟れ過ぎたバナナと一緒にやわらかくなっていく感じがしました。

その後も先輩や同期などたくさんの人に支えられ、
看護師の階段を少しずつ上り続けることができ、
看護師として一区切りである3年目が終了した3月31日に
小さいお花のアレンジメントと一本のバナナを持って
再び看護部長室を訪れました。
看護部長さんにバナナを一本持っていく、
という行為は失礼かもしれないと思いながらも
あの時のあの感謝の気持ちを伝えるには、
なくてはならないものでした。
突然伺ったので、びっくりされていましたが
お花にとても喜ばれ、
「これからもがんばりなさいよ」
とまた背中を押して下さりました。
色んな話をして、そろそろという時に、
もうひとつ渡したいものがあるんです。とバナナを渡すと
一瞬とても不思議そうな顔をされましたが、
理由を言ったら大笑い。

きっと、チョコレートをくれた先輩も
バナナをくれた看護部長さんも
細かい計算はなく
ただ自然にそうしてくれたのだと思います。

だから、
「そんなことしたかしらー。バナナはいつもかばんにあるのよー。」
と私にバナナを渡してくれたことを覚えていらっしゃらず
私の出したバナナに不思議な顔をされたのです。

二人のような、自然に誰かのこころを支え、背中を押すことができる
そんな人になりたいと思いながら看護師を続けてきました。

実際にかばんの中にチョコレートとバナナは入れてないけれど、
今は、臨床を離れてしまっているけれど、
こころの中にそれをそっと持ち続け、
これからも看護師でありたいと思います。

このお話は、看護師マツコを形作った原点の一部です。
きっとみなさんにも、今の自分を形作って支えてくれているものが
あることと思います。
「そんなものない」と言わずに、秋の夜長。
ホコリかぶった自分の
痛かったり苦かったり気恥ずかしかったりの思い出を
思い出してみてはいかがでしょうか?
秋も終盤になり師走がチラ見えする今だからこそ、
今年の締めくくりや来年の目標のヒントになってくれるかもしれませんね。

マツコ