こんにちは🌸
猪突猛進の花子です=3
将来は看護師になる
そう意識しはじめたのは、いつからだったのだろう。はっきり覚えているのは、中学の頃だ。
あの頃に受けた【職業適性試験】
診断の前、看護師に適性があればいいなぁと期待して待っていたのを記憶している。
で、返ってきた診断結果は・・・・・・・・トラック運転手。
⦅・・・!?⦆
まさかの結果に、花子は目が点になった。
看護師じゃなくてもいい。イラストレーターとか、スチュワーデスとか夢膨らむ職業ならまだ救いがあった。
深夜の高速を、缶コーヒー握りしめながらハンドルを切っている姿が脳裏に浮かんだ…いやいや、トラック野郎の素質あり、なんて認めんぞ。
小さな花子の自意識は、ガラガラと音を立てて崩壊した。
それ以来、⦅将来は看護師⦆と口にするたび、⦅でも適性はトラック⦆が頭をよぎり、心がえぐられる思いをし続けた。
そもそも、なぜ⦅将来は看護師⦆と思うようになったのか。
正直に言うと、子供の頃の花子は看護師という職業すらよく知らなかった。病院にいる白衣の人〜ぐらいの感覚で、触れ合う機会もゼロだった。
それなのに、どうして看護師を選んだのか?

我が家ではマンガ禁止令が出ていて、母いわく「マンガを読むと頭が悪くなるから」
でも、マンガ好きの花子は我慢できず、図書館や児童館へ行き【ベルサイユのばら】【ガラスの仮面】など、一人ひっそり読むのが至福の時間だった。
ところが、そんな母が買ってくれたマンガがある。
【天使のたまご】【おたんこナース】
はい、おわかりですね。主人公が新人ナースの職業マンガです。
マンガは禁止なのに、ナースマンガはOK。
普通なら⦅何か裏にあるのでは?⦆と疑うところだが、当時の花子は気づきもしなかった。
ただ単に、マンガを買ってもらえたことがうれしくて、穴が開くほど熟読していた。
今思えば、あれは教材のような役割だったのだろう。そう、母は花子を看護師にしたかったのだ。
実際、母はやたらと看護師押しで…
「看護師さんは、人のためになる良い仕事」
「花子は優しいから向いている」
「手に職をもてば安心」
と、毎日ことあるごとに看護師の魅力を刷り込まれていった。
気づかぬうちに、⦅あなたは、だんだん看護師になりたくなーる⦆と母の催眠術におち、なんとなーく看護師に決まったのである。

なんとなく⦅将来は看護師⦆と決まった花子に、運命の転機は意外なかたちでやってきた。
看護学校の説明会に参加した日、花子の目が釘付けになった。
ナースの卵たち、いや、正確にいえば、彼女たちが着ていた【実習服】に。
青と白の縞模様のAラインワンピース、その上に重ねられた真っ白なエプロン。
上品さと可憐さを併せもったデザイン、【不思議の国のアリス】のアリスそのもの。
実習服を着た彼女たちは、参加者にお茶をふるまっていた。ニッコリ。
ド―――—ン
その瞬間、花子に雷が落ちた。
⦅か、かわいぃぃぃーーー!⦆
⦅絶対あの実習服を着る!⦆
花子の心は固まった。看護師になりたい、ではない。
ただただ、あの実習服を着たい。
その一心で、花子は体当たりで受験へ挑むことになった。
まず困ったことは、志望動機が実習服ってこと。 正直に言ったら、Get lost! になりかねない。
そこで、花子はその学校の理念や歴史を熟読し、志望動機を練りに練った。
面接の質問もあらゆるパターンを想定し、よどみなく答えられるよう昼夜練習。
さらに鏡の前で、好感を与える姿勢と表情をチェック。こうして、念願の実習服を手に入れたのである。
看護の道への始まりは、邪道のなかの邪道と自負している。
けれど、あのときの母の催眠術や一目ぼれした実習服がなければ、花子は今ごろまったく違う人生を歩んでいたはず。
動機はどうあれ続けるうちに得られた実感は大きい。⦅人の役に立てるって、悪くない⦆と。
もちろん、現場は甘くない。覚えることは山ほどあるし、責任も重いし、プレッシャーに押しつぶされそうになる日だってある。
けれど、患者さんの笑顔や「ありがとう」の言葉に触れるたび、この道を選んでよかったと思える。
邪道な動機から始まった看護の道。今の花子の職業適性は、トラック運転手より看護師になっているはず…たぶん。




