看護師+αで輝く人たち。
第3回目の連載となる今回は、看護師としてクリニックに勤務するかたわら、医療通訳としても活躍する金井千恵美さんにインタビュー。
外国からの観光客も年々増加し、医療通訳のニーズも確実に高まってはいることを感じながらも、なかなかイメージできない方も多いのではないでしょうか?
医療通訳とはどんなことをするのか?どうしたらなれるのか?
今回は、そんな医療通訳や英語専門のベビーシッターとして活躍する金井さんのリアルな経験談や、医療通訳に挑戦したキッカケなどをインタビューしました。
看護師としての経歴
現在、看護師としては10年目です。
高校卒業後、すぐに短大に進学し、付属の大学病院に就職しました。
最初の4年間は三次救急の病院に勤務し、そのうちの2年間はハイケアユニットの病棟で重症患者を担当しました。
ハイケアユニットでは外傷メインだったので、より体の内部のことを理解したいという思いから、循環器・消化器内科病棟に異動し2年間勤務しました。
そこから25歳のときに病院を退職して、オーストラリアにワーキングホリデーへ。
帰国後、日本はコロナ禍だったので、空港検疫や外国人向けのホテルでの求人を見つけて、看護師を続けながら、英語を活かせるお仕事をしていました。
それと同時に、タワーマンションの居住者専用クリニックでパート勤務をスタート。
現在も、そのクリニックに勤務しつつ、医療通訳や英語専門のベビーシッターもしています。
医療通訳に挑戦したきっかけ
医療通訳への挑戦を決めた背景には、2つのきっかけがありました。
きっかけ①:ワーキングホリデー

看護師として働く中で、人の死を目の当たりにし、「やりたいことをやらないと死にきれない」という強い思いを抱くようになりました。
この経験がきっかけとなって、英語を話せるようになりたいという、長年の思いに気がついたんです。
私の母はフィリピン人で、母から英語で話しかけられることもあり、英語で上手く話せないことが長年コンプレックスでした。
看護師として通常業務に疲れ切っていたことも重なり、2019年25歳のときにオーストラリアへワーキングホリデーに行きました。
ワーキングホリデーでさまざまな国の人たちの価値観に触れていくうちに、「看護師の仕事自体は好きだけど、自分をすり減らすまでやるべきではない」と感じるようになりました。
ワーキングホリデーを経験したことで英語力を身につけられたので、看護師と英語を組み合わせた働き方を模索し始めたんです。
帰国後、コロナ禍であったため、空港の検疫業務やホテルで英語を使う看護師として働きましたが、より踏み込んだケアをしたいと考えるように……。
そして、現在の職場であるタワーマンションのクリニックの求人にたどり着きました。
このクリニックは利用者の50%が外国人なので、英語を使って対面・電話での医療サポートができることに、やりがいを感じながら働いています。
きっかけ②:NCLEXの取得

ここで働く中で、「もっとステップアップしたい!いずれは海外で看護師として働きたい!」という思いが芽生え、独学でNCLEX(全米看護師試験 National Council Licensure Examination)を取得しました。
NCLEXのために勉強をしたことで、医療英語のスキルはかなりブラッシュアップされたことに気づいて、資格を取っただけではもったいないという思いもありました。
そこで、医療通訳という仕事を見つけて「トライしてみよう!」と決めました。
インターネットで検索して、一番大きそうな医療ツーリズムを提供している会社にメールでアプローチしてみたんです。
特に、通訳の募集とかはしてなかったんですけど……。
そこで、面接を受けて採用が決まり、医療通訳としての活動がスタートしました。
医療通訳としての経験
医療通訳の仕事と一口にいっても、かなり幅広いと思います。
私が経験してきたのは、健診や人間ドッグで外国人の患者さんの付き添いをして、通訳・翻訳をするお仕事。
外国人の方が日本にきて、3日から4日間かけて人間ドックを受けるんです。
患者さんと当日、「はじめまして」で病院の受付で待ち合わせしてスタート。
胃カメラや大腸内視鏡検査もやったりするので、1日がかりですね。
医療通訳の仕事で求められるもの
医療通訳は、そのまま通訳をすればいいというわけではありません。
患者さんは英語を理解できることが前提ですが、ネイティブとも限らないし、医療英語を理解できるとも限らない。
専門用語で説明しても、患者さんにとって医療英語は、一般的でなかったりすることも……。
例えば、眼圧は医療英語で「Intraocular pressure」というのですが、「Eye pressure」と言い換えて理解しやすいように説明したりします。
こんな風に、目の前の患者さんの理解度を確認したり、バックグラウンドを想像したりしながら、アレンジしていく力が求められると思います。
患者さんが先生に質問したいのに、時間を気にして言い出せない場合もあるので、「先生、少しお時間大丈夫ですか?」と、私から医師にアプローチするケースもあります。
こうした、ホスピタリティが非常に大切なんです。
それが、患者さんの満足度につながっていくのかなと思っています。
実際、医療通訳を始めてみて、“自分の言葉として英語で説明する”のと、“誰かの言葉を通訳する”のとでは、使う脳が全く異なると感じました。
圧倒的に語彙(ボキャブラリー)が足りないと感じる場面も多くあります。
自分が「英語を話せるからと言って=通訳ができる」とは、また違うんです。
医療通訳というお仕事は難しさもありますが、その分、自分で色々な工夫ができるところに「やりがい」を感じています。
今までの看護師経験が活きたこと

医療通訳は、看護師の資格がなくても、できるお仕事です。
ですが、看護師だからこそ、病態を理解していることは強みだと思います。
もちろん、通訳のシーンは多岐に渡るので、毎回勉強することも必要ではありますが……。
また、専門用語をそのまま伝えるのではなく、患者さんの理解度に合わせて、衝撃を緩やかにしつつ、説明するアセスメント能力。
そして、「空気感」を読む人間力は、看護師の経験があるからこそできることだなと感じますね。
臨床を通して得た感覚的な経験値も、あると思います。
AIにはできない、“看護師経験があるからこそできる通訳”であると感じますね。
今後のキャリアについて
夫がアメリカ人なので、今後はアメリカに住む予定もあります。
アメリカで看護師として臨床経験を積んで、ゆくゆくは日本にいる外国人が日本の医療にアクセスしやすくし、(英語に苦手意識のある)現場の医療従事者のストレスを軽減する「緩衝材」のような存在になりたいと考えています。
やっぱり外国人患者さんが、日本で医療を受けるのは、すごくハードルが高いことなんです。
医療者と外国人患者、どちらにとってもストレスが少なくなるような関わり方が、将来的にできればいいなと思っています。
メッセージ「自分との対話が新たな挑戦を生む」
新たな挑戦には、自分との対話が、すごく大事だと思います。
「なぜ、それをやりたいのか」という興味を持ったきっかけや想いを深く掘り下げ、「行動した場合どうなるか」「しなかった場合どうなるか」そのどちらも想像してみること。
失敗のリスクを分析し、看護計画を立てるように自己分析を進める。
私の場合は、「やらないことの方が怖い」と感じて行動することができました。
死をゴールと捉えて、そこから逆算して自分の選択で人生を濃いものにしていくことが、行動のきっかけになったと思います。
自分と対話する時間をとることが、重要だと感じていますね。

編集後記|やりたいことをやる人生にしたい
人生は一度きり、いつかは必ず訪れる「死」というタイミングをネガティブに捉えず原動力にしていく。
そんなパワーを金井さんから感じました。
それも、看護師として働いて「死」と間近に接してきたという経験があったからこそですよね。
今回のインタビューを通して、「やりたいこと」をやる人生にしていこう!と、私も改めて決意することができました。
活躍の場をアメリカへと移して、ますます活動の幅が広がりそうな金井さんの今後が、とっても楽しみです。
あらい わかば(ライター・オンラインサロン主宰)
看護師として10年以上実績を重ね、オフィスワークを含め多くの職場を経験。
現在は、クリニックの看護師として勤務しながら、ライター・オンラインサロンの主宰など、精力的に活動の幅を広げている。

スーパーナース編集部
看護師の働き方を支援して30年の株式会社スーパーナース。
派遣や転職をはじめとした就業経験豊富な看護師と編集スタッフが「看護師のはたらく」に関する情報を日々お届けします。






