便秘や排便困難に悩む患者さんにとって、快適な排便をサポートすることは重要なケアの一つです。
本記事では、摘便の基本手順と安全な実施方法について解説します。
体位の調整や圧のかけ方など、トラブルを防ぐポイントを押さえながら、適切な技術を身につけましょう。
摘便とは?
摘便(てきべん)とは、患者さんの直腸内に停滞した便を医療者が指を使って直接取り除く処置のことです。
処置が適切に行なわれない場合は直腸潰瘍や粘膜損傷、皮膚トラブルなどのリスクが高まるため、安全で効果的な方法で行なうことが重要です。
摘便の適応
摘便は、以下のような状況で必要とされることがあります。患者さんの状態に応じて、慎重な判断と適切なケアが求められます。
📌直腸性便秘の場合
直腸性便秘は、直腸に硬便が滞留し、排便反射が起こらず、自力で排便できなくなる状態です。
📌排便機能が低下している場合
高齢者や寝たきりの患者さんは、腹筋・肛門括約筋の筋力が低下し、便意が感じにくくなっています。
📌神経疾患などで排便反射に障害がある場合
脊髄損傷やパーキンソン病、脳梗塞後などがある場合は、自然排便が難しいことがあります。
📌下剤・浣腸が効かない、または使えない場合
便が直腸内に溜まってふたをしていると、薬剤による排便が期待できず、摘便が必要になることがあります。
📌便秘による症状が強く出ている場合
便秘によって腹部膨満や嘔気、食欲不振などの症状が強い場合は、早めの対応が求められます。
摘便が禁忌となるのは?
以下のような状況では、摘便は原則として避けるべきです。
患者さんの安全を最優先に考え、必要に応じて医師と相談のうえ、適切な対応を行ないましょう。
📌肛門や直腸周辺に病変がある場合
裂肛(切れ痔)、潰瘍、手術後の創部などがある場合は、皮膚や粘膜が損傷しており、摘便によって痛みの増強や感染リスクを高めます。
📌強い疼痛や出血がある場合
挿入時に強い痛みがある、あるいは出血が見られる場合は、出血を助長するリスクや、患者さんにさらなる苦痛を与える可能性があります。
📌循環動態が不安定な場合
心疾患(狭心症、心筋梗塞など)のある患者さんは、摘便による迷走神経反射で血圧や脈拍の変動が起こることがあります。
このような場合は、医師の指示のもと、慎重に対応する必要があります。
摘便の基本手技
実施にあたっては、身体的・精神的負担を最小限に抑えるため、正しい手技と患者さんへの配慮が必要です。
以下に、基本的な手順と注意点を示します。
STEP1 患者さんの状態評価
摘便を安全に行なうためには、事前に患者さんの状態を正確に把握することが不可欠です。
以下のポイントを確認し、適切なケアを計画します。
①患者さんの全身状態(バイタルサイン、疾患)
血圧や脈拍、体温などを測定し、摘便による負担を評価します。
②排便パターン・便の性状
便の硬さや量、排便頻度を確認し、摘便が適応か判断します。
③腹部の状態・自覚症状の有無
腹痛・膨満感・腸の蠕動運動の有無を確認し、摘便が適応か判断します。
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💡状態評価のポイント
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- 必要に応じて、医師や他の医療スタッフと情報を共有し、摘便の適応を判断します。
- 患者さんの心理的負担を軽減するため、手技の目的や流れを丁寧に説明します。
- 「痛みの有無」「排便の頻度」など、患者さんの訴えを聞き取ることも重要です。
STEP2 患者さんへの説明と同意
「おなかが張って苦しい原因となっている便を、手で取り除く処置を行ないますね」など、わかりやすく丁寧に説明し、同意を得ます。
STEP3 必要な物品の確認と準備
摘便の際に使用する物品を事前に揃え、準備を整えます。
- 清潔な使い捨て手袋(挿入する側の手は、感染予防のために手袋を二重にすることを推奨)
- エプロン
- 潤滑剤
- ゴミ袋
- 処置用シーツ、紙おむつ
- 尿器
- トイレットペーパー
STEP4 患者さんの準備をする
1プライバシーを確保する
カーテンを閉めるなど、患者さんが安心できる環境を整えます。
2側臥位をとってもらう
左側臥位(シムス位)が基本とし、膝を軽く曲げることで、よりリラックスした体勢を維持できます。
3臀部を露出する
布団やタオルで不要な露出を避けながら、適切に処置を行ないます。
4処置用シーツを敷く
患者さんの腰の下に処置用シーツを敷き、環境を整えます。
5尿瓶の準備
摘便の刺激により排尿する可能性があるため、事前に用意しておきます。
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摘便を行なう際、体位を左側臥位(左を下にした横向き姿勢)にすることが推奨されています。
なお、左側臥位にする主な理由は2つあります。-
患者さんがより快適に処置を受けられる
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手技がより安全に行なえる
この体位では呼吸や循環器への負担も軽減されるため、患者さんがリラックスしやすくなります。
重力により腸管が下垂しS状結腸や直腸がまっすぐに近い形になるため、直腸穿孔のリスクが低減されます。
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左側臥位の体位をとる理由とその効果
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💡体位の調整ポイント
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- クッションや枕を利用し、患者さんが楽な姿勢をとれるよう調整する。
- 体位を整えたあと、患者さんに痛みや違和感がないかを確認する。
- 必要に応じて、補助者が体位の保持をサポートする。
STEP5 実施
1潤滑剤の塗布する
人差し指、または中指に十分に塗布します。
2肛門をやさしく刺激する
安全に実施するために、準備段階で潤滑ゼリーを十分に使用し、肛門周囲をやさしく刺激して緊張をほぐすことが重要です。
3肛門にゆっくり挿入する
患者さんに口での呼吸を促し、呼気に合わせながら第一関節から徐々に挿入します。
4便を指先でかき出す
無理に除去せず、直腸内の便を指でほぐしながら少しずつ取り出します。
処置中は患者さんの表情や痛みを常に観察し、不快感が強い場合は対応を調整します。
便がとりにくい場合は、腹部マッサージを併用することで便が移動し、排出しやすくなることがあります。
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💡実施時のポイント
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- 直腸前壁への圧迫は禁忌
- 便の性状に応じた対応
摘便を行なう際の注意点として、腹側(直腸前壁)への圧迫は禁忌とされています。
これは直腸前壁が穿孔しやすく、圧をかけることで損傷のリスクが高まるからです。
そのため便を崩す際は 背中側に向かって圧をかけるようにしましょう。
軟便の場合は、肛門の背中側を指の腹でやさしく圧迫し、開口を促すことで排出を助けます。
硬便の場合は、慎重にほぐしながら便を崩し、少しずつかき出していきます。
STEP6 処置後の対応
1皮膚状態の確認と清拭
肛門やその周囲を清拭し、皮膚の状態を確認します。
2患者さんの体位・衣服の整え
患者さんの体勢をもとに戻し、衣服を整えます。
3患者さんの体調チェック
患者さんに気分不快や痛みの有無を確認し、必要に応じて適切な対応します。
STEP7 記録
カルテに便の量や性状、実施時間、患者さんの反応などを記録します。
まとめ
摘便は、排便困難を抱える患者さんにとって身体的・精神的な苦痛を軽減するための重要なケアの一つです。
安全かつ効果的に実施するためには、患者さんの状態を的確に評価し、適切な手技と丁寧な説明、そして細やかな配慮が欠かせません。
患者さんの状態をしっかりと観察しながら、負担を最小限に抑えた対応を心がけましょう。
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スーパーナース編集部
看護師の働き方を支援して30年の株式会社スーパーナース。
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