既往歴(きおうれき)は現在の病状や治療方針を決定するうえで欠かせない情報です。
本記事では、既往歴を適切に聴取し、看護や医療の現場で活用するポイントについて詳しく解説します。
既往歴とは?
既往歴とは、患者さんがこれまでにかかった病気やケガ、その治療の履歴のことを指します。
たとえば、
「過去に心筋梗塞を起こしたことがある」
「糖尿病で治療中だった」
「虫垂炎の手術を受けたことがある」
――こうした情報はすべて「既往歴」にあたります。
医療の現場ではとても重要な情報で、現在の病気や症状に影響を与えている可能性があるため、診察や治療方針を決めるうえで欠かせません。
また、既往歴は現在の症状の原因を探る手がかりになるだけでなく、新しい治療を行なう時のリスク評価や注意点の把握にも役立つとても重要な情報です。
現病歴との違い
現病歴(げんびょうれき)とは、現在診断や治療の対象となっている「主訴に関係する疾患や症状の経過」を指します。
その症状がいつ、どのように始まり、現在までどう変化してきたかを中心にまとめたものです。
なぜ既往歴が重要なのか?
再発や合併症のリスクを見逃さないため
過去にかかった病気が再発する可能性があったり、ほかの疾患を引き起こす引き金になったりすることがあります。
今は症状がなくても、将来的なリスクを予測し、適切な対応をとるために既往歴の把握が欠かせません。
具体例
- 過去に脳梗塞の既往があれば、再発予防や抗凝固薬の服用状況を確認する。
- 胃潰瘍の既往があれば、NSAIDsの使用に注意する。
現在の症状との関連を考えるため
「既往歴」が現在の主訴と関係していることもあります。
たとえば、「呼吸苦」で来院した患者さんに心不全の既往があれば、「うっ血性心不全の再燃かもしれない」といった視点が生まれ、アセスメントの幅が広がります。
治療や看護計画の安全性・効果を左右するため
過去の疾患や手術歴によって、現在の治療方針や看護援助に配慮が必要なことがあります。
過去の病歴が「今のケア」に影響することがあるため、安全管理からも既往歴の情報は必要です。
具体例
- 胃切除歴があれば、 経口摂取の内容や消化吸収に注意する。
- 精神疾患の既往があれば、 入院生活のストレスや服薬管理に配慮する。
患者さんの“生活背景”を理解するヒントになるため
既往歴はその人の人生の医療的な履歴でもあります。
どのような病気を経験し、どのような治療を受けてきたかを知ることで、看護師としての関わり方や声かけも変わってきます。
既往歴が看護計画に与える影響
患者さんの既往歴は、看護計画の策定において極めて重要な役割を果たします。
過去に経験した病気や治療歴は、現在の健康状態や将来的なリスク評価に直接的な影響を与えるため、看護師はこれらの情報をもとにして個別化されたケアプランを作成します。
下表は既往歴が看護計画に与える具体的な影響の例を示しています。
既往歴 | 看護計画への影響 | 具体的な対応 |
---|---|---|
高血圧症 | 血圧管理の必要性 | 定期的な血圧測定と適切な薬剤の投与 |
アレルギー | アレルゲンの管理 | アレルギー反応を引き起こさない環境整備と緊急時の対応準備 |
糖尿病 | 血糖コントロール | 食事指導やインスリン管理の支援 |
このように、患者さんの既往歴を詳細に理解することで、看護師はより的確で効果的な看護計画を立案し、患者さん一人ひとりに合わせたケアを提供することが可能になります。
結果として、患者さんの安全性向上や治療効果の最大化に寄与することができます。
効率的な既往歴聴取の方法
看護師が既往歴を聴取する際の課題
看護師が患者の既往歴を正確に聴取することは、適切な看護計画を立てるうえで欠かせません。
既往歴を聴取する時、「うまく情報がとれない」と感じることが少なくありません。
特に、忙しい勤務の合間では、時間に追われて焦ってしまい、必要な情報を聞き漏らしてしまうこともあります。
緊張して、聞くべき質問を忘れてしまう…そんな経験もあるのではないでしょうか。
よくある課題としては、以下のことが挙げられます。
・患者さんとのコミュニケーションがうまくとれない。
・限られた時間内で十分な情報を集めるのが難しい。
・聴取の流れがうまくつかめず、質問が漏れてしまう。
こうした課題を乗り越えるためには、事前の準備とコミュケーションスキルの向上が重要です。
以下では、効率的な既往歴の聴取に役立つ具体的なポイントを紹介します。
事前準備と情報収集のポイント
効率的な既往歴聴取を行なうには、事前準備が欠かせません。
以下の2点を意識しましょう。
1患者さんの基本情報の確認
患者さんの年齢、性別、既往歴などの基本データを事前に把握しておくことで、効果的な質問をすることができます。
2質問リストの作成
過去に患った病気や手術歴、アレルギー情報など、必要な項目を網羅した質問リストを準備しましょう。
聴取時に漏れなく、スムーズに情報を集めることができます。
事前準備を整えたうえで、実際の聴取時には患者さんとの信頼関係を築くことが重要です。
こうした準備をしておくことで、聴取の精度と効率が大きく向上します。
次に、聴取時に意識したいコミュニケーションスキルについて見ていきましょう。
聴取時のコミュニケーションスキル
患者さんとの信頼関係を築くことは、正確な情報を集めるために欠かせません。
安心できる環境を整えることで、患者さんは自分の健康状態や過去の病歴について、より詳しく話しやすくなります。
- 傾聴
- 適切な質問の仕方
- 非言語的コミュニケーション
患者さんの話に集中し、相づちやうなずきをすることで関心を示します。
オープンエンドな質問を用いることで、患者さんが自由に話しやすい環境を作ります。
アイコンタクトや表情、姿勢を意識することで、患者さんが安心できる雰囲気を作ります。
実践例
1具体的な質問の活用
患者さんが過去に交通事故を経験した場合、「交通事故の際、どのような治療を受けられましたか?」と具体的な質問をすることで、詳細な情報を聞き出せます。
2リラックスした態度
アイコンタクトを適度に保ち、落ち着いた姿勢で接することで、患者さんが安心して話しやすくなります。
また、先輩看護師からのフィードバックを積極的に受け入れ、実践を重ねることも、聴取に自信を持って臨めるようになるポイントです。
こうして聴取の工夫によって得られた情報は、正確に整理・記録することで、看護の質をさらに高めることができます。
聴取内容の整理と記録
聴取した情報は、正確に整理・記録することが重要です。これは、看護計画の立案やチーム内での情報共有に大きく関わります。
たとえば、過去に特定の手術を受けた患者さんの既往歴が記録されていれば、術後のケアに必要な注意点を事前に把握でき、適切な対応が可能になります。
また、チームでの情報共有により、ほかの看護師や医療スタッフと連携しやすくなり、患者さんに対して統一されたケアを提供することができます。
まとめ
既往歴の正確な把握は、患者さんの安全を守り、適切な治療を提供するために欠かせません。
過去の疾患や治療歴を理解することで、合併症のリスクを予測し、より効果的なケアにつなげられます。
看護師には、問診や記録の際に既往歴を丁寧に確認し、他職種と連携しながら患者さんにとって最善の医療を提供することが求められます。
日々の業務のなかで、既往歴の重要性を意識し、安全で質の高い看護を実践しましょう。
スーパーナースは看護師に特化した人材紹介派遣会社です。
これまで多数の看護師さんと取引先とのマッチングの実績があり、看護師に特化している会社だからこそのマッチング率、リピート率の高さ、案件数、全国展開、といったさまざまな強みがあります。
お仕事探しや転職に関心がある方は、ぜひ一度、スーパーナースにご相談ください。


スーパーナース編集部
看護師の働き方を支援して30年の株式会社スーパーナース。
派遣や転職をはじめとした就業経験豊富な看護師と編集スタッフが「看護師のはたらく」に関する情報を日々お届けします。
