看護師の業務において避けて通れない「インシデントレポート」。
ヒヤリ・ハットや医療事故の予防、医療の質向上に欠かせない報告書ですが「何を書けばいいの?」「書き方が難しい」と悩む人も多いのではないでしょうか。
この記事では、インシデントレポートの重要性や書き方のポイントを詳しく解説します。ぜひ参考にして、スムーズなレポート作成につなげてください。
インシデントレポートとは?
インシデントレポートとは、医療現場で起きた「事故」や「事故には至らなかったものの、危うかった事例(ヒヤリ・ハット)」を記録・報告する書類のことです。
患者さんへの影響がなかった場合でも、今後の事故防止や医療安全対策に活かすために重要な役割を果たします。

インシデントとアクシデント、ヒヤリ・ハットの違いは?
「インシデント」と混同されやすい言葉に、「アクシデント」と「ヒヤリ・ハット」があります。
それぞれの意味や特徴を正しく理解することは、適切な対応や報告につながります。
ここでは、「インシデント」「アクシデント」「ヒヤリ・ハット」の違いを整理して確認しましょう。
| 用語 | 定義 | 具体例 |
|---|---|---|
| ヒヤリ・ハット |
危うく事故になりそうだったが、結果的に事故には至らなかった出来事 「ヒヤッ」「ハッ」する経験 |
患者さんがふらついてバランスを崩したが、すぐに支えて転倒を防げた。 |
| インシデント | 患者や職員に実害はなかったが、ミスやトラブルが実際に発生した事象(事故寸前の出来事も含む) | 患者さんがベッドから自力で降りようとし、バランスを崩して尻もちをついたがケガはなかった。 |
| アクシデント | 患者や職員に実害(障害・損害)が発生した事故 | 患者さんが転倒し、打撲や骨折などのけがをしてしまった。 |
インシデントレポートを書く4つの目的
医療現場では、インシデントを報告することに不安や抵抗を感じる看護師も少なくありません。
「自分のミスを責められるのではないか」や「評価に影響するのでは」といった懸念が、報告をためらわせる原因になることもあります。
しかし、インシデントレポートは個人の責任を追及するためのものではありません。
むしろ患者とスタッフの安全を守るための前向きな取り組みであり、医療の質を高めるための大切な一歩です。
次にインシデントレポートを書く目的についてを解説します。
1. 医療事故の再発防止
インシデントレポートは個人の責任を問うためのものではなく、同じ過ちを繰り返さない仕組みづくりのために活用されます。
事象の背景や原因を分析することで、業務の改善点や注意すべきポイントが明確になります。
2.チーム内での情報共有
事象の背景や原因を分析することで、業務の改善点や注意すべきポイントが明確になります。
3. 医療の質向上
現場で起きた事例を分析し、マニュアルの改善や研修の充実に役立てます。
4. 組織としての安全文化の構築
インシデントレポートの積極的な提出は、「報告しやすい職場環境」や「責任追及ではなく、改善重視の風土」を育てます。
これにより、スタッフが安心して働ける環境が整い、患者さんにも安全な医療が提供されます。

インシデントレポート作成のポイント
インシデントレポートを書く時は、内容の構成や書き方がとても大切です。
決まったテンプレートを使い、必要な情報をきちんと書くことで、再発防止や医療安全の向上に役立ちます。
インシデントレポートに記録すべき基本項目
病院によって書式は異なりますが、一般的には以下の項目が含まれます。
01発生日時と場所
インシデントが起きた正確な日時と、発生した場所を記載します。
『 2025年7月3日 14時頃/病棟ナースステーション 』
02患者情報
インシデントに関わった患者の基本情報を記載します。
『 年齢や性別、診療科、入院・外来の区別、疾患名など 』
03当事者の部署・経験年数
インシデントに関与したスタッフの所属部署と看護師経験年数を記載します。
『 外科病棟/看護師経験5年 』
04インシデントの種類
どのような種類のインシデントかを分類します。
『 投薬ミスや転倒・転落、医療機器の取り扱いミスなど 』
05原因の分類
インシデントの原因を分類します。
『 確認不足やコミュニケーションエラー、手順の不備、環境要因など 』
06患者影響度(インシデントレベル)
インシデントが患者に与えた影響の程度を記載します。
『 レベル0(ヒヤリ・ハット)〜レベル3(重篤な影響あり)など 』
07インシデントの概要
何が起こったのかを簡潔に記述します。
『 患者Aに対して、誤って別の患者用の薬剤を投与した。 』
08発生後の対応
インシデント発生後に行なった対応を記録します。
『 医師へ報告や処置の有無、患者の状態確認、チーム内での情報共有、再発防止策の検討など 』
09今後の対策
今後同様のインシデントが再発しないよう、具体的な再発防止策を記載します。
『 手順書の見直しやスタッフへの再教育、チェック体制の強化、定期的な振り返りミーティングの実施など 』
インシデントレベルとは
インシデントレポートを作成する際には、「発生した出来事がどの程度の影響を持つミスだったのか」を正しく把握することが大切です。
レベル3b以上はアクシデントとなります。
| 分類 | 影響 レベル |
傷害の継続性 | 傷害の程度 | 内容 |
|---|---|---|---|---|
| インシデント | 0 | なし | 実害なし | エラーや医薬品・医療器具の不具合が見られたが、患者には実施されなかった。 |
| 1 | なし | 実害なし | 何らかの影響を及ぼした可能性はあるが、実害はなかった。 | |
| 2 | 一過性 | 軽度 | 処置や治療は行わなかった(バイタルサインの軽度変化、観察の強化、安全確認の検査などの必要性は生じた) | |
| 3a | 一過性 | 中程度 | 処置や治療を要した(消毒、湿布、皮膚の縫合剥離のみで完了など) | |
| アクシデント | 3b | 一過性 | 高度 | 処置や治療を要した(バイタルサインの著変化、人工呼吸器装着、手術、入院もしくは長期入院等の場合。骨折など) |
| 4 | 永続的 | 軽度〜高度 | 未知的な障害を残す場合(将来で機能障害等で日常生活に支障がない場合。骨折等の場合も含む) | |
| 5 | 死亡 | 死亡 | 死亡(現疾患の日常経過によるものを除く) |
独立行政法人地域医療機能推進機構『医療安全管理指針――インシデント・アクシデントの患者影響度分類』(2025年7月確認)
インシデントレポートの書き方のポイント
インシデントレポートの書き方で迷う看護師は少なくありません。
以下のポイントを押さえておきましょう。
明確かつ簡潔に情報を伝えるコツ
①具体的に記述する
事実を明確に、数字や行動を使って記載します。
例:「14時に点滴準備を開始」「指示書を確認せずに投与した」
②簡潔にまとめる
必要な情報に絞って記載し、読みやすく整理します。長すぎる説明や関係がない情報は省きましょう。
③時系列を守る
インシデントの発生から対応・報告までの流れを順番に記載することで、状況が理解しやすくなります。
④客観的な視点を保つ
感情に流されず、あくまで事実に基づいて冷静に記録することが大切です。
⑤6W1Hを意識する
- When(いつ)
- Where(どこで)
- Who(誰が)
- Whom(誰に)
- What(何が)
- Why(なぜ)
- How(どのように)
インシデントレポートを正確で客観的に書くためには、6W1H(いつ・どこで・誰が・誰に・何が・なぜ・どのように)を意識すると状況を漏れなく整理しやすくなります。
避けるべき表現
①個人を非難する言葉や責任を追及する表現
「看護師Cの不注意により」など、特定の人を責めるような書き方は避けましょう。
②感情的な表現や推測に基づく記述
「たぶん〜だったと思う」「驚いた」「焦った」など、感情や憶測は記載しないようにします。
③あいまいな表現や具体性に欠ける記述
「いつもどおりに対応した」「なんとなく違和感があった」など、具体的でない表現は避けましょう。

インシデントレポートの具体例
ここではインシデントレポートの書き方の参考になるよう、具体的な記載例をご紹介します。
自分自身のケースに置きかえて考えるヒントとして、ぜひご活用ください。
ケース1 内服薬の配薬ミス
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発生日時 | 2025年7月3日(木)14時10分頃 |
| 発生場所 | 外科病棟 ナースステーション |
| 患者情報 | 患者A/70歳・男性/胆嚢炎にて加療中 |
| 当事者の部署・経験年数 | 外科病棟/看護師経験3年 |
| インシデントの種類 | 投薬ミス(内服薬の取り違え) |
| 原因の分類 | 確認不足、環境要因(ナースステーション内の混雑) |
| 患者影響度(インシデントレベル) | レベル1 |
| インシデントの概要 | 12時30分看護師が患者Aに誤って患者Bの内服薬を配薬。14時10分にほかの看護師が薬剤カートを確認し、誤配薬に気づいた。 |
| 発生後の対応 | 誤配薬に気づいた看護師がすぐに患者Aの病室を訪れ、内服前であることを確認。誤った薬剤を回収し、正しい薬を配薬。患者本人に状況を説明し謝罪した。 |
| 今後の対策 |
・配薬時のダブルチェックを必須とし、チェックリストを導入。 ・薬剤カートの整理整頓を徹底し、患者ごとの薬剤トレイに「氏名・ベッド番号・診療科」のラベルを貼付。色分けも導入。 |
ケース2 患者の転倒
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発生日時 | 2025年6月28日(土)10時45分頃 |
| 発生場所 | 内科病棟 4階病室(401号室) |
| 患者情報 | 患者B/82歳・女性/肺炎治療中/入院中 |
| 当事者の部署・経験年数 | 内科病棟/看護師経験1年 |
| インシデントの種類 | 転倒 |
| 原因の分類 | 確認不足、環境要因(ベッド周囲に物品が散乱) |
| 患者影響度(インシデントレベル) | レベル2 |
| インシデントの概要 | 10時45分頃、患者Bがナースコールを押さずに自力でベッドから立ち上がろうとした際、足元の酸素チューブに引っかかり転倒。看護師が物音に気づき、病室に駆けつけた。 |
| 発生後の対応 | 看護師がすぐに患者の状態を確認し、医師へ報告。頭部・四肢の観察を行ない、右膝に軽度の打撲を確認。湿布処置を実施し、バイタルサインを継続的にモニタリング。患者本人とご家族に状況を説明し、謝罪。 |
| 今後の対策 |
・ベッド周囲の環境整備を徹底し、物品の配置を見直す。 ・転倒リスクがある患者には、ナースコール使用の声かけを強化。 ・看護師間で転倒リスクがある患者情報を申し送り時に共有。 ・新人看護師向けに「転倒予防研修」を実施予定。 |
まとめ
医療現場においてインシデントを完全に防ぐことは難しいものです。だからこそ、インシデントレポートは安全を守るための重要な手段となります。
事実を正確かつ客観的に記録し、原因を分析してチームで共有することで、再発防止につながります。
一人ひとりの気づきと報告が、患者さんの安全と質の高い看護の実現に結びつきます。前向きな姿勢でインシデントに向き合い、より安全な医療環境づくりに取り組んでいきましょう。
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スーパーナース編集部
看護師の働き方を支援して30年の株式会社スーパーナース。
派遣や転職をはじめとした就業経験豊富な看護師と編集スタッフが「看護師のはたらく」に関する情報を日々お届けします。






