簡易懸濁法(かんいけんだくほう)は、経管栄養の患者さんへの薬剤投与において看護師が知っておくべき重要な技術です。
従来の粉砕投与と比べ簡易懸濁法には多くのメリットがありますが、誤った方法で行なうとチューブ閉塞や薬効低下などのリスクも。
本記事では、簡易懸濁の基本から具体的な手順、適応薬・不適応薬、看護実践でのポイント、よくあるトラブルと対策まで詳しく解説します。
簡易懸濁法とは?
簡易懸濁法とは、錠剤を粉砕したりカプセルを開封せず約55℃の温湯に一定時間浸して薬剤を懸濁(液中に細かく分散)させ、経管チューブから投与する方法です。
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「懸濁」って?
- 懸濁とは、液体中に固体の微粒子が細かく分散して浮遊している状態のことです。

簡易懸濁法が広まった背景は?
従来、経管投与では薬を粉砕して投与する「粉砕法」が一般的でしたが、この方法には以下のような問題点がありました。
「粉砕法」の問題点
| 問題 | 理由 |
|---|---|
| 薬の飛散 | 粉砕時に薬剤が空気中に飛び散り、曝露や他の薬への混入のリスクがある。 |
| 薬効の低下 | 粉砕により薬の成分が不安定になり、効果が落ちる可能性がある。 |
| 看護師の負担 | 準備や管理に時間がかかり、業務量が増加する。 |
| 粉砕禁止薬の存在 | 一部の薬は粉砕すると、副作用や過量投与の危険がある。 |
| 誤薬のリスク | 粉砕で薬の識別が困難になり、投与ミスにつながる可能性がある。 |
| チューブ閉塞のリスク | 粉砕した薬の粒子が残り、経管チューブが詰まる可能性がある。 |
簡易懸濁法のメリット
粉砕法の課題を解決る方法として、2000年頃から簡易懸濁法が用いられるようになりました。
患者さんの安全性と医療現場の効率性を両立できる手法として評価され、現在では多くの病院や施設で標準的に採用されています。
以下は簡易懸濁法のメリットです。
①薬効の安定性
調剤・保管時は粉砕しないため薬の安定性が保たれる。
②誤薬防止
薬の形状が保たれるため、識別ミスによる誤投与を防げる。
③チューブ閉塞の予防
微粒子が細かく分散するため、チューブへの詰まりを防ぎやすい。
④調剤の効率化
薬局での粉砕作業が不要になり、時間と手間を削減できる。
⑤調剤時の安全性向上
粉じんが飛ばないため、調剤時の曝露リスクを減らせる。
⑥看護師の負担軽減
現場での準備が簡単になり、業務負担が減る。

簡易懸濁の具体的な手順
ここでは、実施時に押さえておきたい基本的な手順をご紹介します。
薬剤の簡易懸濁可否を確認
薬剤を薬杯に取り出す
薬杯に温湯を注ぐ
薬剤を懸濁させる
薬剤の混合状態を確認
懸濁液をシリンジで吸う
経管チューブから投与する
経管チューブをフラッシュする
看護師が注意するポイント
簡易懸濁を行なう際、看護師が特に気をつけたいのは以下の点です。
01懸濁可否を必ず確認する
「簡易懸濁できると思い込む」のが最も危険です。腸溶錠や徐放製剤を懸濁すると、薬効低下や副作用リスクが高まります。
02温度管理に注意する
温湯は厳密に55℃である必要はありませんが、温度が高すぎると薬の安定性に影響が出る可能性があるため注意しましょう。
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55℃の温湯はどうやって作るの?
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作り方には2つの方法があります。
- 水と湯(90℃程度)を1:2で混ぜる。
- ポットの温度設定を60度にして、少し冷ます。
03チューブ閉塞防止のため、確実にフラッシュする
投与後のフラッシュ不足は閉塞の原因になります。患者さんの負担を減らすためにも、しっかり行ないましょう。
簡易懸濁ができない薬剤とは?
簡易懸濁法は多くの薬剤に対応できますが、すべての薬に使えるわけではありません。簡易懸濁を行なう前に必ず薬剤師に確認しましょう。
以下のような薬剤は、簡易懸濁に適していないため、注意が必要です。
徐放性製剤
成分がゆっくり放出されるよう設計されており、懸濁すると一度に吸収されて副作用のリスクが高まります。
腸溶錠
胃ではなく腸で溶けるようにコーティングされているため、懸濁すると胃で分解されて効果がなくなります。
熱に弱い薬剤
55℃の温湯で懸濁する際に、成分が分解されてしまう可能性があります。
水に溶けにくい・分散しにくい薬剤
懸濁しても均一にならず、チューブ閉塞や投与困難の原因になります。
※水に溶けにくい薬でも、錠剤に亀裂を入れることで溶けやすくなる場合があります。
配合変化を起こしやすい薬剤の組み合わせ
ほかの薬と混ぜることで化学反応が起き、沈殿や変色、効果の低下がみられます。
まとめ
簡易懸濁法は、患者さんの安全性を守りながら医療従事者の負担を軽減できる点が大きなメリットです。
ただし、すべての薬剤が簡易懸濁に適しているわけではないため、実施前には薬剤師への確認が必要です。
正しい知識と手順を持って、安全で効果的な投与を心がけましょう。
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スーパーナース編集部
看護師の働き方を支援して30年の株式会社スーパーナース。
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