患者さんのために心と体を張り続ける看護師は、気づかぬうちにストレスや疲労が蓄積しやすいと言われています。
そんな中、医療に携わる人のセルフケアとして、注目されているのが「アロマ(香り)」です。
香りは脳へダイレクトに働きかけ、自律神経のバランスを整えるサポートになるとされ、短い休憩時間でも手軽に“心を整えるスイッチ”として取り入れられます。
また、10月30日は「香りの記念日」です。
看護師自身の癒しはもちろん、患者さんの不安緩和やリラクゼーションケアにも役立つ存在として、今、アロマの活用が見直されています。
この記事では、看護師におすすめの香りタイプと活用方法を、医療現場での注意点も踏まえてわかりやすく解説します。
香りを味方に、自分らしい看護とセルフケアを実践していきましょう。
看護師×アロマが注目の理由

看護師は、強い精神的負荷や不規則勤務による自律神経の乱れが生じやすい職種と言われています。
そのため、薬に頼りすぎないセルフケアとして、アロマテラピーが注目されています。
香りは情動や記憶を司る大脳辺縁系に直接働きかけるため、短時間でも気分転換やストレス緩和が期待できます。
さらに近年では、患者ケアに香りを取り入れる施設も増え、非薬物療法(非薬理的介入)として医療領域でも関心が高まっているのです。
10月30日の「香りの記念日」は、香りの可能性を広く伝える日。
看護師自身の心身の健康維持、そして患者への癒しの提供という両面で、アロマの価値を再認識するきっかけとなります。
患者ケア“リラクゼーション”目的
アロマは、痛みや不安を抱える患者に対し、薬を使用せずに心理的安定を促す“補完代替療法”として位置づけられています。
とくにラベンダーやベルガモットは、心拍数低下や不安軽減に寄与するとされ、緩和ケア・産科領域・認知症ケアなどで導入が進んでいます。
看護師がタッチングや手浴、アロマディフューザーを併用することで、患者との信頼関係の構築や親近感を得るのに役立ち、コミュニケーション促進にもつながります。
香りは対象者の嗜好差が大きいため、導入前のアセスメントが重要です。
個室・デイルームなど、環境選択や香りの強度調整を行い、安全と快適さの両立を図ることが求められます。
看護師のセルフケア“ヒーリング”効果
夜勤や忙しい勤務が続く現場では、交感神経が優位になり続けることで、慢性的疲労や睡眠障害を引き起こすケースがあります。
自宅での芳香浴やハンドトリートメントなど、アロマを用いたセルフケアは、副交感神経を優位にし、睡眠の質向上やストレス対処力の改善に役立ちます。
シトラス系は気分を前向きにし、ウッディ系は精神的安定に寄与するため、勤務前後の“切替スイッチ”として取り入れるのも効果的です。
自分のコンディションに合わせて香りを選べることから、無理なく継続できる健康習慣として注目されています。
“他者を癒す存在”である看護師こそ、まずは自身のメンタルヘルスを整えることが、質の高いケアの提供につながるのです。
アロマの香りタイプと効果&活用例

アロマの香りは大きくいくつかのタイプに分けられ、それぞれが異なるリラックス効果や、気分転換の作用を持っています。
ここでは、代表的な香りタイプと看護師におすすめの活用シーンを紹介します。
フローラル
ローズやジャスミン、ラベンダーなどに代表されるフローラル系は、柔らかく上品で女性らしい香りが特徴です。
心を落ち着けたいときや、感情のバランスを整えたいときにぴったりといえます。
看護の現場では、患者との関わりで緊張感が続いた日や、人間関係に疲れを感じたときにおすすめです。
帰宅後のバスタイムにラベンダーのアロマを取り入れたり、ローズの香りをディフューザーで漂わせたりするだけでも、気持ちを優しく整えてくれます。
フルーティー
フルーティーは、アップル、ペア(洋ナシ)、ピーチなど、甘酸っぱくフレッシュな香りが特徴です。
親しみやすく、心を明るく前向きにしてくれる効果があり、疲れがたまりやすい夜勤明けや、モチベーションを上げたい朝に最適な香りタイプ。
休憩中にペアの香りをハンドクリームで取り入れる、ナースポーチにピーチのアロマミストを入れておくなど、手軽に使えるのも魅力といえます。
シトラス
シトラスは、ライム、グレープフルーツ、ベルガモットなどの爽やかな香りが中心。
清潔感とリフレッシュ効果が高く、「疲れを吹き飛ばしたい」「集中力を上げたい」ときにおすすめです。
夜勤前の気分転換や、朝のスタート時にシトラスを取り入れることで、心をシャキッと切り替えることができます。
ウッディ
ジュニパーベリー、シダーウッド、ユーカリなどの木の香りを感じるウッディ系は、落ち着きと安定感をもたらす香りです。
森林浴をしているような清涼感があり、気持ちを静めたいときや、緊張を解きたいときに向いています。
ナースステーションや休憩室でユーカリをアロマストーンに垂らすと、空気がすっきりし、呼吸も深くなります。
グリーン(ハーバル)
グリーン(ハーバル)は、バーベナやガルバナム、リーフティーなど、自然の葉や草木を思わせる香りです。
清潔感がありながらも温かみがあり、「自然の中にいるような安らぎ」を感じさせます。
疲労がたまったときや、目まぐるしい勤務の合間に心を落ち着けたいときにおすすめです。
自宅では、ハーバル系の香りを寝室に取り入れることで、質の良い眠りをサポートしてくれます。
エキゾチック
エキゾチックは、サンダルウッドやイランイランなど、深みのある甘くスパイシーな香りが特徴です。
リラックス効果が高く、心を解きほぐすだけでなく、気分を高めたいときにもぴったり。
休日の夜や、自分を労りたい特別な日に取り入れると、癒しの時間をより豊かにしてくれるでしょう。
看護師として日々忙しく働く中で、“ご褒美の香り”として楽しむのにおすすめのタイプです。
その他のタイプ
その他にも香りのタイプには、グルマン(バニラ・チョコレートなど甘い香り)、マリン(海のような清涼感)、レザー、アンバー、ムスキーなど、ユニークなものも多数あります。
個性を出したい人や、季節や気分で香りを変えたい看護師におすすめといえるでしょう。
看護師仲間へのプレゼントや、自分へのギフトとしても人気が高いです。
| 香りタイプ | 香りの特徴 | 印象・ムード | 看護師におすすめの活用シーン |
|---|---|---|---|
| グルマン (バニラ・チョコなど) |
甘く温かみがあり、安心感を与える香り | 穏やか・包み込むような癒し | 休日のリラックスタイム/ご褒美アロマ |
| マリン (海・ウォーター系) |
清潔感のあるさっぱりした香り | 爽快・クリーン・ナチュラル | 朝の出勤前やリフレッシュタイムに |
| レザー | 落ち着きと上質感を感じる香り | シック・大人っぽい・知的 | 夜勤明けの切り替え時や集中したいとき |
| アンバー | 温かく深みのある甘さの香り | エレガント・安心感・余裕 | オフの日のリラックスタイムや入浴後に |
| ムスキー | 柔らかく肌になじむ香り | 清楚・上品・清潔感 | ほのかに香らせたいときに |
ナースのためのアロマの使い方ガイド
看護師がアロマを活用する際には、リラックス効果だけでなく、感染管理や治療との相互作用など、医療現場ならではの配慮が必要です。
ここでは、セルフケアとして取り入れやすく、かつ安全性の高い3つの方法を紹介します。
香りの強さ・使用場所などに配慮しながら、活用していきましょう。
芳香浴
芳香浴とは、アロマディフューザーやアロマストーンを用いて、空間に香りを拡散させる方法です。
短時間でも気分転換効果が得られ、自律神経の調整に役立つとされています。
看護師の場合、休憩室や自宅など、患者の嗅覚刺激を避けられる場所で行うのが基本です。
シフトの切り替え時に、柑橘系で集中力を高める、夜勤後にラベンダーで睡眠導入を助けるなど、目的に応じてブレンドを使い分けると、より高い効果が得られます。
手浴
手浴とは、洗面器にお湯を張り、アロマオイルを1〜2滴垂らして手を温めるケア方法です。
皮膚からの温熱刺激と香りによる相乗効果で、緊張緩和・末梢血流改善が期待できます。
触れるケアを担う看護師にとって、手を労わる時間=心の回復につながる時間。
ただし、職場では未希釈の精油の直接塗布や、患者への無断適用は避けることが原則です。
セルフケアとして、自宅や仮眠前のリセットに取り入れると心身のクールダウンに役立ちます。
アロマスプレー
水と少量の精油を混ぜて作るアロマスプレーは、手軽で衛生的な方法です。
白衣やスクラブなどのナースウェアやマスクの外側に軽く吹きかけると、気持ちの切り替えをサポートします。
ただし、患者の前での使用は避ける、香りが残りにくい種類(シトラス/グリーン系)を選ぶなど、TPOに応じた工夫が必要です。
感染対策上、容器の清潔保持や共有を避けることにも留意しましょう。
アロマ活用の注意点と安全性
アロマテラピーは、看護師のセルフケアや患者支援に活用できる一方で、安全性を確保するための基礎知識が欠かせません。
精油の濃度や使用環境、患者の健康状態によっては、皮膚炎や呼吸器症状などのトラブルにつながる可能性があります。
「いつ・どこで・誰に用いるか」を評価しながら、看護専門職として適切に使用する必要があります。
アロマ活用の注意点
アロマテラピーで使用する精油は有効性が期待できる一方、使用対象や状況によっては体調悪化につながるケースがあります。
以下のポイントを事前に確認し、適切なアセスメントと管理のもとで活用しましょう。
妊娠中・授乳期の使用は慎重に
妊娠中は香り刺激による悪心や血圧変動が起きやすく、一部精油には通経作用(子宮収縮促進)を指摘されているものがあります。
特に、セージ・ローズマリー・タイムなどは、妊娠中の使用を避けるべきとされます。
また、授乳期は、香りが乳児の嗅覚刺激となる可能性があるため、量や使用部位の配慮が必要です。
日本統合医学協会|妊婦さんにおすすめのアロマと避けるべき精油
妊婦に対するアロマセラピー吸入の身体的・精神的影響(英文)
5種類の精油の胎盤毒性と潜在的な内分泌攪乱作用の評価(英文)
化学療法中の患者には十分なアセスメント
化学療法中は悪心、味覚・嗅覚過敏が生じやすく、香り刺激で症状悪化が起こる可能性があります。
アメリカの国立補完統合衛生センター (NCCIH) では、補完療法としてアロマを活用しつつも、個別評価を推奨しています。
緩和ケアでの有用なケースもありますが、対象者の体調変化を見ながら、慎重に適応判断を行いましょう。
臨床におけるアロマセラピーの有効性
国立衛生研究所|がんと補完医療
皮膚疾患・アレルギー体質にはパッチテスト
精油は濃度が高く、酸化による刺激増加も起こるため、未希釈使用は禁忌です。
アトピー性皮膚炎や接触皮膚炎の既往がある場合は、前腕内側等で希釈後のパッチテストを行い、皮膚反応がないことを確認してから使用します。
敏感肌には、芳香浴中心が安心です。
呼吸器疾患は禁忌となる可能性も
精油の香り刺激は、喘息発作や呼吸困難を誘発する可能性が指摘されており、注意が必要です。
特に、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や気道過敏性亢進のある患者さんには、原則としてアロマの使用は控えます。
アメリカ肺協会|エッセンシャルオイル:有益性よりも有害性が高い?
米国アレルギー・喘息・免疫学会|エッセンシャルオイルディフューザーと喘息
光毒性を持つ精油の取扱いに注意
ベルガモット、レモン、グレープフルーツなど一部精油には、光毒性物質(フロクマリン類)が含まれており、使用後に紫外線曝露すると皮膚炎のリスクがあります。
皮膚に触れる使い方をする場合は、外出前の使用を避ける・夜間使用が安全です。
薬剤との相互作用の可能性
精油成分の一部は、肝酵素(CYP450)に影響する可能性があり、多剤併用中の患者では注意が必要です。
※海外で相互作用報告あり(特にセントジョーンズワート併用例など)
医師・薬剤師と情報共有し、患者への安易な適応は避けましょう。
共有空間・嗅覚過敏への配慮
医療環境では患者・スタッフ間で嗅覚感受性が異なります。
強い香りは不快感や頭痛の原因にもなるため、休憩室・自宅など限定環境でのセルフケアが基本です。
香りは「ケアの質を高める要素」であると同時に、「環境刺激」であることを意識しましょう。
アロマの安全性
アロマは適切な方法で活用することで、看護師自身のストレス緩和や、患者さんの不安軽減に役立つ補完的アプローチとなります。
特にラベンダーやベルガモットなどの精油には、自律神経の調整や睡眠の質向上に寄与した報告もあり、緩和ケアや高齢者ケアの現場で支持されています。
ただし、安全性を確保するためには、精油の品質管理と保管方法がとても重要です。
劣化した精油は刺激性が増すため、遮光瓶での保存や使用期限の確認が欠かせません。
また、共有容器の使用は感染リスクにつながるため避け、使用後は記録を残すことで、アレルギー反応や体調変化にも早期に対応できます。
医療従事者として、アロマを「安全に使えるケアツール」として扱う意識を持つことが、香りを味方にした看護の質向上につながります。
10月30日“香りの記念日”ナースのためのアロマ
10月30日は「香りの記念日」。
香りが心身に与える作用を学び、生活に役立てることを目的として制定された日です。
忙しい看護の現場では、ストレスや緊張が蓄積しやすく、心の疲労はパフォーマンス低下にもつながります。
この機会に、アロマをセルフケア習慣として取り入れてみるのはいかがでしょうか。
例えば、休憩前にラベンダーの香りで呼吸を整える、シフト入り前にシトラス系で気分を切り替えるなど、短い時間でも実践できる方法があります。
また、スタッフ同士で香りスプレーを作るワークショップや、緩和ケアチームとの連携による患者支援など、チームケアにも応用可能です。
香りを味方にケアの質を高めよう
アロマは、看護師にとって単なるリラックスアイテムではなく、“自分を整えるためのケアツール”です。
正しい使い方を知り、自分に合った香りを選ぶことで、心と体のバランスを保ち、より良いケアへとつなげることができます。
忙しい日々の中で、香りを取り入れることは“立ち止まる時間”をつくること。
フローラルで優しく、シトラスで前向きに、ウッディで穏やかに、香りの力を味方につければ、看護の現場にも新しい風が生まれます。
10月30日の「香りの記念日」をきっかけに、ぜひ今日から、アロマを取り入れたセルフケアを始めてみてくださいね。
看護師のアロマに関するよくある質問
看護師でも勤務中にアロマを使っていいですか?
- 勤務中に使用する場合は、香りが強く残らないように配慮しましょう。周囲の患者さんや同僚に影響を与えないよう、アロマストーンやハンカチなど、“自分だけが感じられる範囲”で楽しむのがおすすめです。
アロマにはどんなリラックス効果がありますか?
- アロマの香りは嗅覚を通して脳に伝わり、自律神経を整える働きがあります。フローラル系は安心感を、シトラス系は前向きな気持ちを、ウッディ系は落ち着きをもたらします。看護師のストレス緩和や睡眠の質向上に役立ちます。
医療現場で使いやすい香りはなんですか?
- 医療現場では、清潔感があり控えめな香りが好まれます。シトラス、グリーン、ユーカリなどはリフレッシュ効果があり、香りの印象も軽やかです。患者さんにも受け入れられやすく、安全に使えるタイプです。
夜勤明けにおすすめのアロマは?
- 夜勤明けは体と心が疲れやすいため、グレープフルーツやベルガモットなどのシトラス系でリフレッシュを。帰宅後のリラックスタイムには、ラベンダーやサンダルウッドでゆっくり気分を落ち着けるのもおすすめです。
アロマを使うときに注意することはありますか?
- 原液を直接肌につけないこと、妊婦さんや持病がある方への使用は避けることが大切です。職場では、香りの強さとTPOに合わせて使い分けるのがマナーです。
アロマを使ったセルフケアの始め方は?
- まずは、好きな香りをひとつ選び、ハンカチやディフューザーに1〜2滴垂らして使ってみましょう。慣れてきたら、手浴や芳香浴などの方法を取り入れるとより効果的です。「香りの習慣化」が、ストレスマネジメントにも役立ちます。
チームでアロマを取り入れる方法は?
- ナースステーションや休憩室に、香りを共有できるディフューザーを置くのも一案です。10月30日の「香りの記念日」に合わせて、チームで“癒しの香り週間”を実施するなど、職場全体でリラクゼーション文化を作るのもおすすめです。

スーパーナース編集部
看護師の働き方を支援して30年の株式会社スーパーナース。
派遣や転職をはじめとした就業経験豊富な看護師と編集スタッフが「看護師のはたらく」に関する情報を日々お届けします。






