看護師さんにとって、派遣という働き方・雇用形態は、まだまだ浸透しているとは言い難い状況です。しかし実際に「派遣」として勤務するのであれば、そのしくみを正しく理解しておく必要があります。このページでは、看護師さんが派遣として働く上で、知っておくべき内容をわかりやすくまとめました。
勤務先ではなく、派遣会社と雇用契約を結ぶ
まずは派遣の仕組みについてご説明します。
たとえば、バイト・パート(あるいは正社員)として勤務する場合、看護師のみなさんは、勤務先である病院や医療施設と直接雇用契約を結び、その勤務先の職員として働きます。そのため給与は、雇用元である病院・施設から支給されます。また社会保険加入、福利厚生・労働条件提示などは、その勤務先が行ないます(勤務先=雇用元となります)。
しかし、派遣で働く場合、勤務先は同じ病院や医療施設でも、看護師は派遣会社と雇用契約を結び、派遣会社⇒勤務先へ派遣されます。そのため、看護師さんへの給与の支払い、社会保険の加入手続き、就業条件の明示、有給休暇の付与などは、雇用元である派遣会社が行ないます(勤務先≠雇用元)。ただし、業務の指揮命令(具体的な仕事の指示)は、派遣先となる病院や医療施設が出します。
つまり看護師のみなさんにとっては、誰と雇用契約を結ぶかによって雇用形態が変わってくるというだけで、それが派遣であっても、バイトであっても、業務内容や実際の働き方に大きな差はありません。
一つの派遣先で働ける期間は最長3年
派遣の場合、有期雇用となりますので、働く期間を定めてお仕事を開始します。期間限定の短期のお仕事もあれば、継続的に更新しながら、長期的に勤務できるお仕事もあります。ただし同じ勤務先(事業所)で働けるのは、勤務開始日から最長3年と法律で定められており、その期限を迎える最初の日を「抵触日」と呼んでいます。
「抵触日」を迎えると、その日以降、その勤務先でお仕事を継続することはできません。もしも勤務先のほうで、抵触日以降も継続勤務を望む場合は、その看護師に対して、直接雇用の申し入れをすることが義務付けられています。
組織を変えれば同じ病院で3年以上働ける?
2015年9月に改正された労働者派遣法では、前述したとおり、業種・業務内容に関わらず、派遣期間は最長でも3年となります(一部例外あり)が、抵触日は「事業所単位」と「個人単位」で、それぞれ定められています。
個人単位の抵触日は、看護師さんが派遣として、最長でいつまで働けるかを定めたものであり、勤務を開始した3年後となります。逆に言えば、この抵触日を超えて、同じ勤務先で継続勤務することは法律違反です。ただ、この「同じ勤務先」の定義は、「同じ病院・同じ医療施設」という意味ではありません。たとえば、ある病院の病棟で派遣スタッフとして3年間勤務し、抵触日を迎えたとしても、同院内の別病棟に移れば、勤務を継続することができるケースもあります。この場合、組織・部署が異なれば(=勤怠等の労務管理者、業務の管理責任者が異なれば)、別の勤務先という扱いになり、抵触日を迎えても、新たに派遣契約を結び、継続勤務することが可能です。厳密には、雇用保険の適用事業所番号が異なれば、別の勤務先となります。
派遣期間は延長できる?
一方、事業所単位の抵触日は、その事業所において最初に派遣スタッフが勤務を開始した日を起算日とし、その3年後となります。たとえば仮にAさんが派遣スタッフとして勤務を開始し1年で勤務終了。入れ替わるかたちでBさんが派遣スタッフとして同じ勤務先で働き始めた場合、Bさんの抵触日は、本来勤務開始日から3年後となりますが、この場合は、事業所の抵触日が優先されるため、Aさんの派遣期間1年+Bさんの派遣期間2年=3年となり、Bさんは実質2年しか勤務ができません。
ただしこの派遣期間は、過半数労働組合(組合が無い場合、過半数代表者)に意見聴衆し、異議申し立てがなければ延長することができます。これは抵触日の1か月前までに行なう必要がありますが、きちんと手続きを踏むことによって派遣期間を延長することができます。
この「抵触日」は、派遣会社と契約を結ぶ際に必ず提示がありますので、ひとつの派遣先で長期的に働きたい場合は、この「抵触日」をしっかり把握しておきましょう。そうすれば仮に抵触日が近づいても、派遣会社から別の勤務先を紹介してもらうなど、前もって事前準備を進めておくことができます。
クーリング期間が過ぎれば、再び派遣スタッフの受け入れが可能
それでは、一度「抵触日」を迎えてしまった勤務先(事業所)は、以降二度と派遣のサービスを利用できないかというと、そんなことはありません。一定条件を満たせば、あらためて派遣スタッフの受け入れが可能となります。
その条件とは、派遣スタッフが勤務していない状態で「3か月+1日以上」が経過すること。この空白を「クーリング期間」と呼んでいます。クーリング期間が過ぎれば、個人単位の抵触日であれ、事業所単位の抵触日であれ、いったん期間制限がリセットされるため、新たに最長3年の期間で、派遣スタッフの受け入れができるようになります。
大前提として看護師の派遣は「原則禁止」
前項で派遣のしくみをご説明しましたが、実はそもそも、看護師が派遣として働くことは「原則禁止」されています。
派遣スタッフとして働く場合、労働者派遣法という法律の制限により、看護師が医療行為を行なうことを認めていないのです。具体的には、病院やクリニック、介護老人保健施設(老健)、訪問看護、助産所での勤務がこれ(医療行為)に該当します。
前述のとおり、看護師の派遣は「原則禁止」ですが、例外として認められるケースが3つ存在します。
1.紹介予定派遣
紹介予定派遣とは、一定期間 派遣スタッフとして勤務し、その後双方合意のもとで、正職員として直接雇用される働き方です。このケースにおいては、正職員に移行するまでのお試し期間中の間は派遣就業が認められています。
2.産育休代替派遣
産育休代替派遣とは、産前産後休業や育児休業中の看護師の代替として勤務する働き方です。このケースでは、産休・育休から職場復帰するまでの間のみ、派遣での就業が認められています。
3.医療行為を伴わない施設への派遣
医療行為を伴わない施設とは、有料老人ホーム、特別養護老人ホーム、デイサービス、健診センター、保育園、社会福祉施設(保護施設・児童福祉施設・障害者施設等)を指します。これらの施設での勤務については、看護師派遣が法律で認められています。
一方、バイト・パートは、派遣ではなく直接雇用のお仕事となりますので、労働者派遣法の制限を受けることなく、病院やクリニック、老健等でも勤務することができます。